英貨一片は日本の約四銭

ちなみに英貨一片は日本の約四銭、一志がざっと五十銭に相当するこというまでもない。 さて。 そこで私たちも「日本へ帰ったような気」になって片隅に腰をおろし、耳へ飛びこんでくる雑然たる「日本」の物音を心しずかに味わっていると――。 給仕人と女給――ともに日本人――が二階の台所へ向って註文を通す声がはっきり聞える。『定食ツウ!』 けだし「ツウ」は two にして二つの意味であろう。『ナンバ・フォア、味噌汁スリイ願います。』 四番さんおみおつけ三つというところ。『ワン新香《しんこう》、おうらい!』『海苔まきフォア・六人《シックス》!』『ナンバ・セヴンのお椀まだですか。』『十一番さん、御飯《ライス》おかわり!』

 皿の音、沢庵《たくあん》の香《におい》、お醤油のこげるにおい、おつゆを啜《すす》る盛大なひびき、「いらっしゃいまし」「お待ち遠さま」「有難う存じます」の声々――それに混じって食堂じゅうに色んな日本語が縦横に走り交《かわ》している。『おい君、巴里《パリー》で行ったかい? え? ほら、あそこさ。例のところさ。はは。』 と大声を発しているのは、若い会社員の一団――恐らくは一つ橋出らしい郵船の人たち――の食卓である。『いや、そのことさ。じつはこうなんだ――。』

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