意見《いけん》が違《ちが》いまして

良人《おっと》と私《わたくし》との間《あいだ》に、なかなかの悶着《もんちゃく》がございました。私《わたくし》は優《や》さしい名前《なまえ》がよいと思《おも》いまして、さんざん考《かんが》え抜《ぬ》いた末《すえ》にやっと『鈴懸《すずかけ》』という名《な》を思《おも》いついたのでございます。すると良人《おっと》は私《わたくし》と意見《いけん》が違《ちが》いまして、それは余《あま》り面白《おもしろ》くない、是非《ぜひ》『若月《わかつき》』にせよと言《い》い張《は》って、何《なん》と申《もう》しても肯《き》き入《い》れないのです。私《わたくし》は内心《ないしん》不服《ふふく》でたまりませんでしたが、もともと良人《おっと》が見立《みた》ててくれた馬《うま》ではあるし、とうとう『若月《わかつき》』と呼《よ》ぶことになって了《しま》いました。『今度《こんど》は私《わたくし》が負《ま》けて置《お》きます。しかしこの次《つ》ぎに良《よ》い馬《うま》が手《て》に入《はい》った時《とき》はそれは是非《ぜひ》鈴懸《すずかけ》と呼《よ》ばせていただきます……。』私《わたくし》はそんなことを良人《おっと》に申《もう》したのを覚《おぼ》えて居《お》ります。しかしそれから間《ま》もなく、あの北條《ほうじょう》との戦闘《いくさ》が起《おこ》ったので、私《わたくし》の望《のぞ》みはとうとう遂《と》げられずに終《おわ》りました。 とに角《かく》名前《なまえ》につきては最初《さいしょ》斯《こ》んないきさつがありましたものの、私《わたくし》は若月《わかつき》が好《す》きで好《す》きで耐《たま》らないのでした。馬《うま》の方《ほう》でも亦《また》私《わたくし》によく馴染《なじ》んで、私《わたくし》の姿《すがた》が見《み》えようものなら、さもうれしいと言《い》った表情《ひょうじょう》をして、あの巨《おお》きな躯《からだ》をすり附《つ》けて来《く》るのでした。 落城後《らくじょうご》私《わたくし》があちこち流浪《るろう》をした時《とき》

— posted by id at 05:44 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.2237 sec.

http://1yen.tv/