臨終《りんじゅう》が近《ちか》づきました時《とき》

にも、若月《わかつき》はいつも私《わたくし》に附添《つきそ》って、散々《さんざん》苦労《くろう》をしてくれました。で、私《わたくし》の臨終《りんじゅう》が近《ちか》づきました時《とき》には、私《わたくし》は若月《わかつき》を庭前《にわさき》へ召《よ》んで貰《もら》って、この世《よ》の訣別《わかれ》を告《つ》げました。『汝《おまえ》にもいろいろ世話《せわ》になりました……。』心《こころ》の中《なか》でそう思《おも》った丈《だけ》でしたが、それは必《かな》らず馬《うま》にも通《つう》じたことであろうと考《かんが》えられます。これほど可愛《かわい》がった故《せい》でもございましょう、私《わたくし》が岩屋《いわや》の内部《なか》で精神統一《せいしんとういつ》の修行《しゅぎょう》をしている時《とき》に、ある時《とき》思《おも》いも寄《よ》らず、若月《わかつき》の姿《すがた》が私《わたくし》の眼《め》にはっきりと映《うつ》ったのでございます。『事《こと》によると若月《わかつき》は最《も》う死《し》んだのかも知《し》れぬ……。』 そう感《かん》じましたので、お爺《じい》さまにお訊《たず》ねして見《み》ますと、果《はた》してこちらの世界《せかい》に引越《ひきこ》して居《い》るとの事《こと》に、私《わたくし》は是非《ぜひ》一《ひ》と目《め》昔《むかし》の愛馬《あいば》に逢《あ》って見《み》たくて耐《たま》らなくなりました。『甚《はなは》だ勝手《かって》なお願《ねが》いながら、一|度《ど》若月《わかつき》の許《もと》へ連《つ》れて行《い》ってくださる訳《わけ》にはまいりますまいか……。』『それはいと易《やす》いことじゃ。』と例《れい》の通《とお》りお爺《じい》さまは親切《しんせつ》に答《こた》へてくださいました。『馬《うま》の方《ほう》でもひどくそなたを慕《した》っているから一|度《ど》は逢《あ》って置《お》くがよい。

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