馬車は速かった

 馬車は速かった。あんなに速いとは思わなかったが、先の二つには追いつけなかった。到着した時点で、ハンソムもランドーも熱気収まらぬ馬とともに、入口前に停車していた。代金を支払い、教会へと急いだ。人気はなく、中にはただ三人、追った二人とサープリスを着た牧師だけだった。牧師は何やら二人をいさめているようで、三人ともひとかたまりになり祭壇の前に立っていた。僕は教会へぶらり立ち寄ったならず者の振りをし、側廊をうろついた。すると驚いたことに、突然、祭壇の三人が僕の方を顧み、ゴドフリィ・ノートンに至っては全速力で駆けてくるのだ。『神に感謝する。』とノートンはのたまってね、『君でいい、来たまえ、こっちに来たまえ!』 僕は『何事でさ。』と訊いたのだが、『来るんだ、君、来てくれ。もう三分しかないんだ、法的に通用しなくなる。』[#挿絵6(fig226_06.png、横484×縦642)入る] と半ば引きずられるようにして祭壇へ連れていかれ、気が付くと小声で教え込まれたことを呟き、訳の分からぬ事を誓わされたあげく、独身女性アイリーン・アドラーと独身男性ゴドフリィ・ノートンの結婚の立会人になってしまった。式はあっという間で、左右からは紳士淑女に礼を述べられ、正面では牧師がにこやかに笑っている次第だ。しっちゃかめっちゃか、とはまさにこの事だ。先ほど笑ったのは、このことを思い出したからだ。証明書に何かしら不備でもあったのだろう、牧師は立会人なしでは結婚を認めぬと。人を捜しに出ようと思った矢先、幸運にも僕が現れたものだから、花婿は通りに出る手間が省けたというわけだ。花嫁は僕にソヴリン金貨一枚をくれてね、事の記念として時計鎖に付けておこうと思う。」「思いがけない展開となったな。」と私。「それから?」「うむ、調査が危機的状況にあることに気が付いた。二人がすぐ旅行に行くやもしれん。僕としても、早急に効果的な手を打たねばならぬ。しかし二人は教会の前で別れた。男は学院へ、女は自宅へ馬車で引き返すようだ。『いつものように、五時、馬車で公園へ。』と去り際に女は言い、それ以上の言葉は聞こえなかった。二人の馬車は別の方向へ走り去っていき、僕は手筈を整えるため舞い戻ったわけだ。」「手筈?」

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