雲作り職人ではない

「僕とて雲作り職人ではない。」とホームズは笑う。「全く単純なことだ。もちろんのこと、通りにいた人は皆、協力者だ。今夜のためにまとめて雇った。」「そんなことだろうと思った。」「それと、突発した喧嘩の際、僕は手のひらに溶かした紅を隠していた。走り込んで、転倒、顔をひしと叩けば、哀れ見せ物の完成。古くさいいんちきだ。」「ある程度、察しが付いた。」「人々に僕はかつぎ込まれた。嫌とは言わせない、あのとき他に何が出来よう? 僕が怪しいと睨んでいた、あの居間へ通された。居間か寝室のいずれかと踏んでいたが、どちらか見極めたかったのだ。ソファに寝かされ、酸欠の振りをし、窓を開けるよう仕向けたので、いざ好機、というわけだ。」「あれで役に立ったのか?」「まさに作戦の核だ。女性というものは、家が火事になれば、本能的に最も大切とするものへ駆け寄る。いかんともしがたい衝動というもので、一度ならずも利用したろう。ダーリントンすり替え疑惑やアーンズワース城の件でも世話になった。既婚女性はその赤子を抱え上げ、未婚女性は宝石箱に手を伸ばす。今日の淑女は我々の捜す物以上に、大事な物が家の中にあるとは到底思えない。必ずやそこへ行くはず。君の見事な叫び声。煙との相乗効果で、鉄の心も揺るがせる。彼女はあざやかに反応してみせた。写真は右側、呼び鈴の紐のすぐ上、羽目板をずらした窪みの中にあった。たちまち彼女はそこへ行き、半分出したのが垣間見えた。僕が誤報だと叫ぶと、元に戻し、発煙筒を一瞥して部屋から飛び出したきり、姿が見えなくなった。僕は身体を起こし、何とか口実を作り、家から抜け出したのだ。すぐさま写真を手に入れるか躊躇したが、御者が入ってきて、僕を凝視するものだから、慎重になった方が安全だと思えたのだ。急いては事をし損じるからね。」「これからは?」と私。

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