我々三人が親書を読み終えたとき

「なんたる女――まさに、なんたる女だ!」と我々三人が親書を読み終えたとき、ボヘミア王が叫んだ。「言った通り、怜悧決然たる女であろう? きっと王妃の誉れとなったであろうに。惜しむらくは、家格が余には不相応であったことか。」「僕が拝見しましても、この女性、なるほど陛下とはたいへん格が違うようです。」とホームズは冷ややかに言う。「遺憾ながら、陛下のご依頼を上首尾な結果に終わらせることが出来ませんでした。」「その逆であるぞ、貴公。」と王は感嘆する。「まことに上首尾である。あの女の言葉に嘘偽りはない。写真は火中にくべたも同然、今や安全である。」「陛下にそう言っていただき光栄に存じます。」「大儀であった。礼をつかわすゆえ、何なりと言うがよかろう。この指輪なぞ……」と王は指からヘビの形をした翠玉《エメラルド》の指輪を抜き取り、自らの手のひらに載せた。「陛下は僕にとってもっと価値のある物をお持ちです。」とホームズ。「何であるか申せ。」「この写真です!」[#挿絵10(fig226_10.png、横494×縦664)入る] 王はホームズを驚きの眼で見詰める。「イレーナの写真とな!」と王は声を上げる。「よかろう。望むのであれば。」「ありがたく存じます、陛下。しからば、もはやこの件は解決いたしました。ごきげんよう、と謹んで申し上げます。」とホームズはお辞儀し、王の差し出した手に見向きもせず、きびすを返し、私とともに下宿へ引き上げたのだった。

 以上がボヘミア王室を脅かした一大醜聞であり、ホームズの深謀が一女性の機知にうち砕かれた事件の顛末である。以前は女性の浅知恵と冷やかしていたホームズも、最近は一言もない。そしてアイリーン・アドラーに触れたり、写真を引き合いに出したりする際には、ホームズは常に『かの女』という敬称を使うのである。

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