防火栓は奇功を奏した

 トロツテルは又拳骨を振つて囲を衝いて、火消番の立つてゐる所へ往つた。救のある所へ往つた。 そこでどうなつたか。気の毒千万なのはロオデンシヤイド市民と元日のおなぐさみとである。天罰の下るやうに、曲馬場の中から喞筒《ポンプ》の水が迸り出た。滔々乎《たう/\こ》として漲つて息《や》まない。あらゆる物をよごし、やはらげ、どこまでも届く。 防火栓は奇功を奏した。晩のお客は問題の最簡単なる解決を得た。お客は踵《くびす》を旋《めぐら》して逃げた。これで命に別状はない。昼のお客はその跡からぞろぞろ出て、曲馬場をあけた。 但しいやと云ふ程洗礼を受けぬものは一人も無い。皆寒がつて歯をがちがち云はせてゐる。併し命には別状は無い。 頭カスペリイニイは天才の道化方に抱き付いて、給料を増す約束をした。これは次いで起る裁判事件を前知したら、控へたのかも知れない。新年早々数十件の損害要償の訴訟が起つて、水でいたんだ晴着の代を出させられたからである。其判決の理由にはかう云つてあつた。災難の原因は看客の理性の不足でもない。警察の不備でもない。曲馬場の入口を一つしか設けなかつたのが原因《もと》である。 頭はいやな顔もせずに償金を払つた。それはロオデンシヤイドの曲馬場は今後もきつと大入だと云ふことを知つてゐたからである。それが何よりの事だからである。

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